| [テ・アナウへ] | |||||
| 日本を出発したのが10月26日の夜7時、シンガポールを経由(1泊)してクライスト・チャーチからニュージーランドに入国。そこでもう1泊して、ようやくクィーンズ・タウンに到着したのが10月29日の夕方4時過ぎだった。 クィーンズ・タウンでは、空港内にある観光案内所で予約したホテルに2泊し、中1日はホーストレッキングにでかけたりしてゆっくり遊ぶことができた。 10月31日朝9時、キラキラ輝くワカティプ湖に別れを告げ、なだらかな緑の丘陵を抜けて、タクシーは空港へ向かった。 10時発のテ・アナウ行きは、6人乗りの単発機だ。パイロット自ら乗客の荷物を積み込み出発した。やがて眼下には、緑の牧草地に綿帽子を撒き散らしたように羊の群れが見えてくる。この国には、300万の人口に対してその20倍以上の6000万〜7000万頭の羊がいるそうだから、どこへ行っても羊に会える。 乗客は地元の人と思われる男性と、日本人の男性、それに私たちの計4名だった。出発前にテ・アナウ空港までの迎えの車を頼んでおいたが、がたがたという音を立てて着陸した草原(空港)には、堀っ建て小屋がポツンと立っているだけだ。仕方なくそのまま待っていると、今度はワゴン車の運転手に変身したパイロットがホテルまで送ってくれたのだった。『なるほど無駄がない』と私は妙に感心したのだった。
ホテルで荷物を降ろすと、2時出発のツチボタルの洞窟観光を申し込んだ。それからレストランで腹ごしらえをして、散歩がてらコロミコ・トレックまで歩いて行った。コロミコ・トレックというのは、日本人によるトレッキング・ハイキング専門の旅行社だ。毎年10〜4月のシーズン中、現地で活動している。私たちはそこの代表者である平野さんを通して、ミルフォード・トラックの申し込みをしていた。 事務所を訪ねると数人の日本人スタッフがにこやかに迎えてくれた。耳慣れた日本語が飛び交う事務所内の様子にほっとする。平野さんは、山への情熱を全身からほとばしらせているような、見るからに山男といった風貌の人物だ。彼が直々にコースの概要やら注意点を説明してくれた。コロミコですっかり寛いだ私たちが、洞窟観光船に乗り込んだのは出発時間間際だった。 船がテ・アナウ湖の向こう岸へ着くと、洞窟入り口にある建物の中に集合だ。ガイドが冗談を言って笑わせながらツチボタルの生態について解説をしてくれたが、私たちにはさっぱり聞き取れなかった。仕方なく写真を眺め、何となく分かった気になる。 小さなボートを3つ乗り継いで、ようやく辿り着いた洞窟の奥深く、真っ暗な闇の中に無数のツチボタルがキラキラ光を放っている。思わず『地底宇宙』と表現したくなる。ボートの乗客は静かに感嘆の声をもらしている。我を忘れた私が「ワァ!スゴ〜イ!」と思わず口走り、夫に脇腹をつつかれた。先ほどガイドから洞窟内では静かにするよう注意されたばかりだ。『ゴメンナサイ』仕方なく手で口を覆いながら、その分目を丸くして感動していた。 ![]()
全行程がハイキングと登山の混じったようなトレッキングの旅だ。 日本では考えられないことだが、宿泊先のロッジには清潔なベッドと温水シャワーが完備されている。また何人ものスタッフが常駐しており、豪華なフルコースの夕食と昼食にはサンドイッチまで用意してもらえる。従って極めて軽装備の山歩きが楽しめるので、世界中から多くの老若男女がやって来る。ただし1日当たりの出発人数は30数名程度の制限があるようだ。ベッド・ルームは男女別なので男女の割合により多少変わるのだろう。出発時間や歩調などは各自の好みに従い、一方通行となっているコースを自由に楽しみながら歩く。みんなでゾロゾロ歩かないこともうれしいが、この人数制限と一方通行という点は、とくに私が気に入ったものだ。 『みんなでゾロゾロ…』と言えば、この旅行の少し前に、尾瀬のニッコウキスゲを見に行った時のことを思い出す。狭い登山道で学生たちの集団にぶつかり、すれちがう下りの連中を待っているほうが長いので、とてもいらいらさせられた。登り優先が通用しないのだ。それに木道では、何とか会などと名前をつけたたくさんのグループが、お揃いのレインコートを着てぞろぞろ歩いているのも奇妙だ。 『こういう所へ集団で押し寄せるなんて…』とどこでも群れを作る国民性に悲しくなる。「私は人間の群れを見に来たのではなく、自然を見に来たのだ!」と叫びたかった。歩道のすぐ脇に群生しているミズバショウが異様に大きく育っているのも人間が大勢入って来るのが原因らしい。「こんな風に無制限に人間を入れては自然が破壊されてしまうじゃないの。団体旅行を締め出すとか、予約制で1日あたりの人数を制限するとか何とか手立てはないの?」と夫を相手に息巻いたものだ。 ミルフォード・トラックの特徴である入山者の制限には『さすがは自然保護が徹底しているニュージーランドだ』と溜飲が下がる思いだった。 |